これまで、新しいサプライチェーン計画システムの構築に、多大な労力と費用が投資されたケースが数多くありました。しかし、これらのシステムのユーザーへの普及は、なかなか進みませんでした。時間が経つにつれて、プランナーは元のやり方に戻ってしまいました。
- なぜ失敗したのでしょうか?
理由の一つは、新しいシステムが継続的に進化できるような製品ではなく、一回限りのシステム導入プロジェクトとして扱われたことです。新しいシステム導入の成功率を向上させるために、多くの企業はチェンジマネジメント(変革管理)の重要性を強調しています。チェンジマネジメントを成功させることで、変革の過程における阻害要因を取り除き、メンバーの考え方を変え、スキルを向上させ、行動を変えることができます。チェンジマネジメントは間違いなく重要ですが、多くの場合、「PUSH(押しつけ)」または「アウトサイドイン」に重点を置いた、典型的な「飴と鞭」のアプローチを取ります。
- より良いアプローチはあるのでしょうか?
新しい計画システムの普及を進め、その効果を最大化できる「PULL(引き出し)」または「インサイドアウト」のアプローチはありえるのでしょうか?答えは“イエス”です。LineやFacebookのような消費者(コンシューマ)向けアプリケーションの製品開発からベストプラクティスを学ぶことができます。
- コンシューマ アプリケーション開発から学んだ教訓
コンシューマ アプリケーションのプロダクトマネージャーは、多くの場合、次のようなトピックを検討します。
- 製品のターゲット顧客
- 明確な問題ステートメントと顧客のペイン・ポイント
- 製品価値提案
- 顧客のペルソナとカスタマージャーニー
- アジャイル、MVP(実用最小限の製品)、反復的な開発
- ユーザー行動分析
- A/B テスト
これをサプライチェーン計画システムなどのビジネスアプリケーションに置き換えてみましょう。
- 製品のターゲット顧客: 計画システムのターゲット顧客は誰でしょうか?ビジネスアプリケーションの世界では、ターゲット顧客は、企業全体または組織レベルの、対象となるビジネスユニット、および個人レベルの個々のユーザーです。ステークホルダー分析は、ターゲット顧客を特定し、彼らのニーズをよりよく理解するのに役立ちます。
- 明確な問題ステートメントと顧客のペイン・ポイント: 組織レベルでのペイン・ポイントは通常、組織が直面している課題、または企業の戦略目標に必要な機能と現状との間のギャップに関するものです。一方、個人レベルでの問題点は、主に個人の仕事をより効率的かつ効果的に改善する方法に関するものです。
- 製品価値提案:新しいサプライチェーン計画システムの価値提案とは、新しい計画システムによってもたらされる技術的能力(テクノロジー・ケーパビリティ)が、組織が課題を克服し、業務的能力(ビジネス・ケーパビリティ)を実現するのにどのように役立つかということです。新しい計画システムの成功の鍵は、組織の利益と個人的な利益を一致させることです。多くの場合、システムを使用する人々の利益を無視して、組織の利益に重点が置かれすぎています。これが、チェンジマネジメント(変革管理)が、新しいシステムの成功をサポートするための非常に重要な手段と見なされている理由です。しかし、新しいシステムを「使うように頼まれる」状態から、「使いたい」状態にシフトすることができれば、はるかに良い結果が得られるはずです。
- ペルソナとカスタマージャーニー:計画システム開発では、対応するプランナーのペルソナ(彼らが誰であるか、何をしているか、パフォーマンスがどのように測定されているかなど)も理解する必要があります。また、彼らが日常業務をどのように遂行しているかを理解する必要があります。例えば、「プランナーの典型的な一日」のような分析によって、この目的を果たすことができます。一般的な計画サイクルのなかで、プランナーがどのように業務を行うのか、主要なタスクやその頻度、順序などについて説明するものです。一方でユーザーストーリーも定義され、プランナーが業務を遂行するために必要な機能についての、より詳細な情報が提供されます。
- アジャイル、MVP、反復開発: コンシューマアプリケーション開発では、ユーザーの要望やニーズを最初から完全に理解することは困難です。仮説を調査、テスト、検証し、製品開発サイクルに沿って軌道を修正する必要があります。このため、新製品の開発を成功させるには、アジャイルで反復的な開発が必要です。一方、ビジネスアプリケーション開発では、ターゲット顧客の範囲は比較的小さく、明確に定義することが可能ですので、最初にユーザーの要件を収集することが可能です。但し、ユーザーが要件を正確に説明できない、という可能性はあります。従って、より良いアプローチは、ウォーターフォールとアジャイルの両方の方法を最大限に活用することです。ウォーターフォールアプローチは、最初にスコープとタイムラインが明確に定義されているため、プロジェクトの範囲、スケジュール、および予算を、比較的容易にコントロールできます。一方、UIやワークフローなど、新しい計画システムの機能を知らないユーザーが、要件を明確に表現できない領域で、アジャイルで反復的なアプローチを使用すると、ユーザーエクスペリエンスを向上させることができます。一般消費者がiPhoneアプリのUIを体験する前に、何か建設的な提案を提供できるでしょうか?新しい計画システムの導入を成功させるためのもう1つの重要な要素は、自社のCoE(センターオブエクセレンス)を構築して、システムの稼働後も改善を継続することです。CoE には、業務と技術の両方のバックグラウンドを持つメンバーが必要です。そして、CoEの中核は、計画システムのプロダクトオーナー (PO) またはプロダクトマネージャー(PM)となります。プロダクトオーナーは、計画システムを内部顧客 (業務ユーザー) に “販売” し、計画システムの普及率を向上させる必要があります。さらに、プロダクトオーナーは、満たされていない組織的および個人的なニーズに目を光らせ、それらのニーズを満たすための新しいテクノロジー機能を検討する必要があります。継続的な改善を達成するために、CoEは外部委託ではなく、自社内に構築する必要があります。
- ユーザー行動分析:ユーザー行動に関するKPI は、アプリケーションの魅力と、ユーザーがアプリケーションをどの程度アクティブに使用しているかを示します。計画システムでは、計画担当者が新しい計画システムをどのように使用するかを理解するために、ユーザー行動に関するKPI をトラッキングする必要があります。SaaSでのシステム導入が増えており、ユーザーの行動を記録し、各プランナーのUIを開いた回数、またはUIに滞在する時間を把握することができるようになりました。ユーザー行動を理解することで、トレーニング、UXの改善、満たされていないニーズに対する新しい機能強化など、ユーザーへの普及を促進するための戦略を練ることができます。
- A / Bテスト:同じ要件を実現する方法が複数あるケースも多く、どちらが優れているかを判断するのが難しい場合があります。A / Bテストは、どちらがより良いユーザーエクスペリエンス(UX)と、計画システムとしての大きな成果をもたらすことができるのか、を検証するのに役立ちます。
まとめ
新しいサプライチェーン計画システムの導入を成功させ、普及を進める方法に関する重要なポイントは次のとおりです。
- チェンジマネジメント(変革管理)は不可欠ですが、組織レベルと個人レベルの両方で価値を提供できる、ということがとても重要です。
- 優れたプランナー(計画担当者)の体験によって、新しいシステムの普及率を高めることができます。
- 成功を維持するために、自社内にCoE(センターオブエクセレンス)の構築を検討すべきです。