米ペプシコ社では、組織のサイロ化によって計画と意思決定のサイクルに遅れが生じるという課題を抱えていましたが、それが原因で価値創出にブレーキがかかっていることが判明したのを機に、IBP(統合事業計画)を核としたS&OPのための組織変革に着手しました。

本記事では“aim10xライブ”において米ペプシコ社 最高戦略・変革責任者のアテナ・カニオウラ氏にインタビューした映像を元に、ペプシコ社がデジタルIBP機能によって部門間のサイロを打破し、コラボレーションの大幅改善と全社的なビジョンの統合を実現した取り組みについて紹介します。
ペプシコ社での現在の役割についてお聞かせください。
ペプシコ社に入社して2年半になりますが、最高戦略・変革責任者として組織変革の任に当たっており、会社の変革と戦略を担うペプシコとしてもまったく新しい部門を率いています。この部門の役割は、企業の戦略を設計し、長期的に成長するための方法を考え、その成長を達成するために必要な次世代の能力を発見することにあります。その実現のため、部門内の機能を「経営戦略とカテゴリー戦略」「変革」「デジタル活用」「データ分析とAI活用」という4つのグループに再編成しました。この体制の中で、データ分析、プランニング、意思決定という、戦略面で非常に重要となる能力を業務の中心に組み込むことに注力してきました。
同時に、クラウド環境の一新、規模の拡大も図り、ビジネス全体で当社の競争優位性の向上に貢献しています。収益管理、販売効率などの面においても、世界規模で効果を上げています。
ペプシコ社では、S&OPのプロセス実現に向けてIBPにも積極的に取り組んでいらっしゃいます。
はい、IBP(統合事業計画)は当社の変革実現のための大変重要なテクノロジーであり、o9とともに導入を進めています。今年はヨーロッパに続いて北米での導入を開始する非常に重要な年です。IBPの推進にあたって、当社では4つのポイントを重視しています。
1つ目は優先順位を付けるためのフレームワーク作りです。新しく採用する機能が既存の運用環境に適合するのか? ROIは高いのか? 価値を引き出すのにどのくらいの時間を要するのか? 現在および将来のビジネスに必要なものなのか? など、様々な要件を判断しやすい方法で提示して、優先順位を付けていくことがとても重要になります。
2つ目に、ビジネスにおいてはパフォーマンスの維持と変革の推進を同時に実行しなければいけないため、今年は何をどこまで出来るのかを熟考することの必要性です。当社のビジネスは大変好調なので、会社の業績に影響を与えずに、スムーズな進化を果たせるような変革プランが不可欠となります。
3つ目の重要な要素はITサービスの変更管理です。ペプシコでは変更計画を設計の一部として組み込むことで、ダウンタイムなしでスムーズな移行を実現しています。
4つ目は、サービス設計と設計原則をビジネスの優先事項に組み込むことです。多くの企業が素晴らしい製品を提供しているのに、ユーザビリティが低いために失敗してしまうということが少なくありません。当社では、ユーザーデザインとサービスデザインをビジネスで利用するすべての製品に組み込んでいます。
私たちはこうした主要な分野に注意を払うことで、成長するための能力を着実に拡大させてきました。
ペプシコ社がIBPに注力されている背景についてお聞かせいただけますか?
ポイントは2つあります。まず、組織のサイロ化を打破することです。
ペプシコでは私が入社する前からデジタル変革を進めていましたが、かつての業務の現場では情報がサイロ化し、それぞれの組織が独自の方法で利益計画を策定していました。そのため、組織全体で単一の計画として合意を形成するためには、部門間での多くの交渉が必要で、非常に非効率的な状態にありました。さらに、それによって得られた結果が本当に需要の動向を正確に把握しているのか? 財務目標を達成するために本当に最適な計画なのか?ということに対しては経験と勘で対応していたのが実情でした。ですから、唯一の真実の情報源として信頼できるIBPプログラムを導入することは必須だったのです。
IBPを活用すれば、全員が単一の計画と目標に沿って行動することが可能になります。運営の権限は個々の部門から排除され、ゼネラルマネージャーに集約されます。その代わり最終的な責任もゼネラルマネージャーが持ちます。経営サイドでは、IBPを使ってビジネスのビジョンを現場と共有し、現場に活力を与えることができます。IBPは、ビジネスを成長させるための原動力になります。
2つ目のポイントは、IBPがサプライチェーンの議論から、エンドツーエンドのビジネス変革の議論へと移行したことにあります。
一般的にIBPの導入・運用は、CSO(最高サプライチェーン責任者)が担当することが多いと思います。ペプシコではCSOに加えて、CCO(最高顧客責任者)とCFO(最高財務責任者)もステークホルダーとなっていました。 しかし IBPプログラムは全社のあらゆる活動に影響を与えるため、戦略・変革部門によって実行されるべきです。IBPによって長期計画を達成するために短期的ギャップを埋め、エンドツーエンドの計画を立案することで、あらゆる市場ニーズを把握することが可能になります。私たちにとってIBPは成長のためのエンジンであると同時に、単一のインターフェイスの下で全員がコラボレーションすることができる究極のプラットフォームなのです。

ペプシコ社ではESG(環境・社会・ガバナンス)に関しても積極的に取り組まれています。
ペプシコにとって ESGと持続可能性の課題は、事業戦略において積極的に取り組むべき重要な領域となっています。そこで、o9 のプラットフォームを活用してESGの指標を IBPのプロセスに組み込み、プランナーがESG指標をワークフローの一部として可視化することで、ESGの目標とビジネスのコミットメントの両方を、トレードオフを考慮しながら同時に達成できるような仕組みを構築しました。
CO2排出量の抑制や、地球にやさしい包装資材の選定、ペットボトル再利用(rPET)の取り組みを強化するなど様々な規制にも対応していますし、その透明性や可視性も高めています。
IBPの大きな目的は、信頼できる中長期の計画を立てることにあります。しかし、2年後に市場環境がどう変化し、自社のビジネスがどのように進化するかを正確に予測することは誰にもできません。そうした不確実な環境にあって、これからも私たちはESGへの取り組みに沿った正しい意思決定を続けていきたいと考えています。
企業経営においては、ビジネスのポートフォリオ、販売計画、生産計画、供給計画の間に次々と制約が立ちはだかりますが、そうした中でもトレードオフを考慮しながら目標を達成していく上で、IBPはいまや必要不可欠なツールとなっています。例えば、新しい革新的な製品を開発しているときに、それが会社の持続可能性に対する取り組みを損なうものにならないかということを同時に検討することができるのです。
あくまで私見ですが、o9が提供するIBP機能は、現在入手できる製品の中でクラス最高の性能を備えたものであると思います。他の企業でもこうしたペプシコのような取り組みを採用されてはどうでしょうか。
最後の質問です。DXには多くの企業が取り組んでいるものの、実現のスピードや変更管理などに苦労しているのが現状です。ペプシコ社では障害をどのように克服しているのでしょうか?
まず 変革を推進するためのチーム作りが必要です。そして、チームのメンバー自身が変革の力を心から信じて、その効果を社内に情熱的に伝えていかなければなりません。そうでなければ変革の潜在力は50%~60%しか現れません。その意味で、チームメンバーは変革の最大の擁護者でもあるのです。
次に重要な要素はコミュニケーションです。変革によって変更された内容だけを何度伝えたとしても、ユーザーがそれを確実に理解するとは限りません。大切なのは、何がどのように行われ、それが従業員一人一人の仕事にどのような影響を与えるのか。そして変更の結果として彼らの仕事がどのように変化するのかということを効果的に伝えることです。デジタル変革によってもたらされるものの中には、雇用の喪失やプロセスの変更など、適応するのが容易ではないものも内在されていますので、コミュニケーションが重要であることは言うまでもありません。
さらに必要なのが、従業員のスキルアップです。ペプシコ入社後に私が進めたのが「デジタルアカデミー」の設立でした。役職や職務に関係なく、社内の全員に変革に関するトレーニングを受けてもらいました。デジタルに移行するための優先事項や、変革によって達成しようとしていることは何なのかなど、基本的なことを理解してもらうとともに、個々の専門分野に応じて、認定を含む追加のトレーニングを提供しました。認定プログラムを修了すればバッジを受け取ることができ、IBPアンバサダーという職業資格を得ることができます。
そして忘れてはいけないのが、人材戦略です。効果的な変革を実現するには、多様な人材が必要です。当社では女性と男性の割合がほぼ半々となっています。また、米国内の技術分野の人材を見ると、アフリカ系アメリカ人とヒスパニック系の割合が高くなっています。現実的に、こうした人材力が私たちの成功を加速させた要因になったと思っています。多様な人材を受け入れ、その人材の力で変革計画を推進することができる組織としての能力が、ペプシコの最も重要な資産の1つになっているのです。
本日は貴重なお話を伺わせていただきありがとうございました。
筆者紹介

aim10x
Digital Transformation Community「aim10x」は、イノベーター、学者、リーダーたちの事業計画や意思決定を支援することを目的としています。世界でもトップクラスのイノベーターから学び、障壁を乗り越え、DXを加速化させるツールとしてお役立てください。